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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)502号 決定

抗告人

甲野一郎

右法定代理人親権者

乙野太郎

主文

原審判を取り消す。

抗告人がその氏を父の氏「乙野」に変更することを許可する。

理由

抗告人は、主文と同旨の決定を求め、抗告理由の要旨は、原審が、本件申立に反対する抗告人の父の妻の心情及び抗告人の父とその妻の娘が結婚適齢期にあることを考慮して、本件申立を不相当であるとし、これを却下したのは、抗告人の利益を無視することになり、不当であるというのである。

本件の資料によると、原審が認定した(1)ないし(10)の事実のほか、抗告人の両親は、昭和四三年一〇月四日抗告人の親権者を協議上父乙野太郎と定める旨の届出をしたことが認められる。

右認定のように、抗告人は、親権者父乙野太郎の監護の下に同じ家屋に居住しているのであるから、生活協同体の共通の呼称を正式に用いたいという抗告人の本件申立は、これを許可するのが相当である。

抗告人の父乙野太郎とその妻との婚姻破綻の原因が乙野太郎の所為にあるとはいえ、婚姻破綻は、夫婦間で解決すべき問題であり、それが未解決であるからといつて、本件申立による抗告人の利益が犠牲にされるいわれはなく、本件申立の許可にともない抗告人と戸籍を同じくすることについて抗告人の父の妻は反対しているが、抗告人の父乙野太郎の戸籍には同人が抗告人を認知したことの記載がなされているのであるから、いわゆる戸籍が汚れるというのは感情の問題に帰し、また、抗告人の存在が娘の結婚に影響があるとしても、右認知がある以上本件申立の許可の有無によりそれ程大きな差異を生ずるとは考えられないのであるから、これらを理由に本件申立排斥するのは不当である。

よつて、当審の見解と異る原審判を取り消し本件は、原審に差し戻すまでもなくみずから審判に代る裁判をするのを相当と認め抗告人の本件申立を許可することとし、主文のとおり決定する。

(伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

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